2012/02/22

ポキン

硬派なZULLOの中でも、もっとも硬派で伝統のモデル VINTAGE
73年からずっと作ってきたモデルだけあってなんかこう背筋が伸びる気がするフレーム。
先日、納車してんけど 渋いグラフィック。クロにシルバーのピスストライプときたら硬派度がさらにアップして「ウールジャージ」じゃないと乗れません!って感じに。

さて、カンパリヤエンドが現在でも装備されるこのモデル
ペイントを担当してるんやけど・・塗った後は・・ホラ、小物を付けんとイカン。
中でもこの時代のリヤエンドにはホイールのセンターを決める小さなネジが付いてる。
もちろんメッキする際も塗装する際も装着されてないのは昔を知る自転車屋さんなら皆知ってる話。溶接、メッキ、塗装の全てが終わり・・ 鎮座するフレーム。

この小さなネジを入れてやらねばならない。 が、厚み8mmのカンパ鍛造のエンドに深さ14mmの小さなネジ穴が空いている・・しかも これが M3 という大きさのネジで直径3mm、穴自体は2.3mmしかない。分厚いメッキが穴の中まで付いてるから結構狭いときたもんだ。

タップという雌ねじの山を作る刃物の出番やけど。。細い!
タップ、筋の入ったネジやね
これでムリヤリ穴を広げるねん
もちろん、途中で折れるとサイテーなことに・・(経験有り)
ほぼ根本までタップを入れてやっとアタマが出てくる
このときにクシャミでもしようもんなら・・
ポ キ ン やで

だいたい、この硬い母材に M3 のねじ穴を手で掘っていくというのはあまりにリスキーや。
この仕事はいつも背中に冷や汗がたら〜 とする 背筋を伸ばして、深呼吸して、誰も周りにいないことを確認してから始める。 当たり前だが電話にも絶対に出えへんで。

ポキンするとどうなるか?

・・塗装はおろか、フレームがパー だったりする。ポキンしたらココロも折れるのだ。
対処はエンドを加熱して交換する以外ないのだがシートステーが薄いので再加熱による組成変化であぶってる最中にクラックが入ることが多いだ。 基本的にはこんな細いタップの救出はかなり難しいねん。折れる位置にも寄るけど、M3は抜き出すためのエキストラクタという工具もうまく働かないんで、ポキンしたら家に帰って3〜4日寝込むしかない。もちろんそんなときはポキンしたヤツに近づかない、そっとしとくのがキマリ。

ネジとスプリングをホイール側から入れていく
マイナスドライバーが時代を感じさせる
タップが通ったら、ネジを入れるけど、回りは全て塗装済みで超仕上がり状態。工具で傷を入れないように慎重に作業を進める。まだ気が抜けない・・
メクラローレットナットを入れて絞めコロシ
しっかり締めておかないとナットだけがポロッ
完成。ふぅ〜
でももう片方もあるよん。
ゲッ
少々センターが狂ったホイールでもこのおかげでフレームのセンターに車輪が装着できる。
が、しかし レース中にこれを調整するとは思えない。しかもこの水平に車輪が移動するタイプのエンドはホイール前方に障害物、特にシートチューブがあると車輪が取り出せないので車長が短くなってくる90年代以降使われることが少なくなったタイプの部品。

しかし今のカンパニョーロが始めた変速システム、彼らは変速機だけをデザインしたのではなくこのようなフレーム部品も設計し製造した。この形があったからこそ今の変速機があるとも言える。 イタリアン・クラシック と言えばやっぱりコレか。。

そやけど、このM3ネジはイタリアのどのビルダーに聞いても寝込んだ話を聞いた。
「昔はあのカンパの調整ネジがねぇ〜」とCASATIのジャンルイージ、ピナレロ下請け時代のPEGORETTIダリオ、DeRosaのウーゴ、そしてZULLOのティツィアーノ・・みんなこのカンパのエンドの洗礼を受けてきたのだ。
ジェントルマンなバイクを作るにはこれを乗り越えなアカンのやろな。


逆にこの話で食いついてこないのは実際に生産していないブランドだったり、下請けに作らせていたところだったりする。
本当の職人はおもてからは意外と見えないものである。



1 件のコメント:

  1. えぇ〜お話です、勉強になりました。

    よりいっそう愛着が湧きましたヨ。

    寒くて乗ってまへんが、、、

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